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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)1915号 判決

原告 株式会社兵庫相互銀行

右訴訟代理人弁護士 中村友一

被告 内外エンジニアリング株式会社

同 株式会社中山製鋼所

右訴訟代理人弁護士 西昭

同 寺崎健作

主文

被告内外エンジニアリング株式会社は原告に対し金二七八万二四五八円及びこれに対する昭和四一年六月五日以降完済迄日歩五銭の割合による金員を支払え。

原告の被告内外エンジニアリング株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社中山製鋼所に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は被告内外エンジニアリング株式会社の負担とする。

本判決のうち被告内外エンジニアリング株式会社に対する勝訴の部分は仮りに執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

〈証拠〉によれば、原告は昭和四一年三月一〇日被告内外エンジニアリング株式会社に対して金三〇〇万円を、弁済期日同年四月三〇日、期限後の損害金日歩五銭として貸し渡したことが認められる。

次に被告株式会社中山製鋼所の本案前の抗弁について判断するに、原告は、被告株式会社中山製鋼所からの代金を代理受領するにつき同被告の承諾を得た、と主張して、原告自らの同被告に対する契約上の地位に基き商業手形の交付または右代金額相当の損害賠償を請求するものであって、訴訟のための委任に基く請求とはいえないから、右抗弁は理由がない。

そこで右代理受領について判断する。

被告株式会社中山製鋼所が被告内外エンジニアリング株式会社に対して契約番号D7No.二三一帯鋼連続電気亜鉛メッキ及び燐酸塩処理装置一式代金のうち金五〇〇万円を昭和四一年二月二五日に支払うことになっていたところ、右代金の代理受領につき昭和四一年二月三日原告及び被告内外エンジニアリング株式会社において作成した代理受領依頼書と題する書面に、被告株式会社中山製鋼所が承諾の趣旨で捺印したことは当事者間に争がない。

〈証拠〉によれば、被告内外エンジニアリング株式会社は昭和四一年二月三日原告の梅田支店から融資を受けるに際し、その担保として被告株式会社中山製鋼所に対する代金の受領を原告に委任したことが認められる。

原告は、右代金の受領を受任するに当って被告株式会社中山製鋼所から、同被告としては、右代理受領が原告にとって債権の担保であると知り、原告と被告内外エンジニアリング株式会社が同道した場合に限って右代金を支払う、との承諾を得た、と主張する。

〈証拠〉によれば、被告内外エンジニアリング株式会社の経理担当者が昭和四一年二月三日同被告と原告の連判した代理受領依頼書と題する書面を被告株式会社中山製鋼所方に持参して、銀行の方からの依頼で右書面の趣旨を承諾して貰いたい旨申し出たところ、被告株式会社中山製鋼所においては、このような書面に始めて接したことであるのに、被告内外エンジニアリング株式会社から右以上の説明はなく、また原告からも被告株式会社中山製鋼所に対して直接に右承諾を求める理由を告げるようなことをしなかったので、被告株式会社中山製鋼所としては右書面に「被告内外エンジニアリング株式会社が右代金の受領に関する一切の権限を原告梅田支店長の藤原秀美に委任したが、被告株式会社中山製鋼所に対し、被告内外エンジニアリング株式会社と原告の梅田支店が同道のうえ右代金額の商手を受け取りに行くので、支払方承諾願いたく、連署をもって依頼する、なお右委任は原告と被告内外エンジニアリング株式会社の双方が同意のうえでなければ解除もしくは変更しない、と特約しているので、この点もあわせて承認を求める」との旨記載されているのを、原告梅田支店の者が被告内外エンジニアリング株式会社と同道して代金の支払を求めたときには、原告にこれを手渡すべきもの、と解釈して、右解釈したところに従い、依頼書に右の件を承諾するとの趣旨で記名押印した、と認められる。

ところで、債権担保の手段として、原告主張の如く代理受領の委任を受け、受任者においてのみその弁済を受領し得ると約定することは、担保を設定した当事者間においてはその機能を果し得るところである。しかしながら指名債権の譲渡或は質入という制度を法定し、かつ所定の手続を要求するのは、右の場合債権者側の一方的行為によるも、なお第三債務者がその弁済すべき相手方を一義的に確定し得るように計ったのであるに鑑みれば、右の如く債権者側の一方的行為によるのとは異って対人的な約定に基く代理受領の場合には、その委任が受任者のみに弁済受領の権限を付与し、委任者は代金を受領せず、かつ委任者に弁済しても受任者に対する関係では右弁済によって免責されない趣旨であることを逐一第三債務者に明示し、そのうえで受任者のみに弁済するの承諾を得る、という必要があり、右の如くして承諾を得るのでなければ、右代理受領をもって第三債務者に対抗し得ないものである。

本件において、先きに明らかにした代理受領依頼書の記載によると、被告株式会社中山製鋼所に対して原告が被告内外エンジニアリング株式会社と同道するから原告に交付して欲しい旨を依頼した、とは認め得るとしても、右以上に出て、原告主張の如く、原告と同道した場合に“限り”弁済すべきものであり、然らずして弁済しても原告に対抗できない旨を明示した、と迄はいえず、また被告株式会社中山製鋼所において右主張の如く諒解していた、と認めるべき証拠もなく、ほかに右主張についての立証はない。

原告は、以上に反して、右の如き代理受領が取引上しばしば行われており、且つ受任者が銀行であって、委任そのものの解除権を委任者において放棄している場合には、第三債務者としては、代理受領を担保とした受任者に協力し、右受任者に対してのみ支払う趣旨で承諾したものである、と争う。しかしながら原告が、自らの債権を担保するため、被告株式会社中山製鋼所に対する代金債権について、譲渡または質入という如き、第三債務者たる同被告をして弁済すべき相手方を明らかに確知し得るような判然とした周知の方法があるのに、これによることなく、あえて対人的な約定に基く代理受領を選び、しかもなお債権の譲渡または質入と同じく第三債務者を拘束しようとするからには、原告としては、取引の相手方ではない被告株式会社中山製鋼所に対し、自らまたは被告内外エンジニアリング株式会社をして、右の代理受領が債権の担保であり、原告のみ交付すべき所以を逐一明らかに示したうえで承諾を求め、もって代金を交付すべき相手方を一義的に確定すべきものであって、これを尽くしたとは認められないにも拘らず、なおも取引の相手方でない第三者たる被告株式会社中山製鋼所に対して債権回収についての協力を求めるの由はなく、むしろ原告の如き金融機関としては、自らの債権を回収する担保として代理受領を選び、もってその取引の外にある第三者に協力を求めるのであるから、弁済すべき相手方につき疑義が生じるような一片の書面を徴するをもって足れりとせず、進んで第三者に途惑いを起させないように配慮して然るべきである。

以上によれば、原告が被告株式会社中山製鋼所に対して主張する約定は認められないから、右約定に基く商業手形の交付またはこれに代る同金額の損害賠償の請求はいずれも理由がない。

よって原告の請求中、被告内外エンジニアリング株式会社に対し貸金残金二七八万二、四五八円とこれに対する昭和四一年六月五日以降約定日歩五銭の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容するが、その余を全て失当として棄却する。〈以下省略〉。

(裁判官 渡辺一弘)

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